3D映画を観ると疲れる
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実空間での焦点/輻輳の関係(左)と3D映画での焦点/輻輳の関係(右) |
Mendiburuは
この焦点/輻輳の非同期は、多くの人が難なくしていることであり、そうでなければ3D映画は存在しない。This focus/convergence de-synchronization is something most of us do without trouble, or 3D cinema would just not exist.
しかし、イギリスのローボロー大学のピーター・A・ホワースは、このような一連の実験から「3D映画の害悪」を安易に導き出すことは注意しなければいけないとも言っています(ちなみに上記の論文ではそのような結論を述べてはいません)。3D映画と2D映画を被験者に見せて効果を観察するという実験方法について、以下のように述べています。
このような(実験)アプローチの問題は、立体視(ステレオプシス)は他の要素 ーこの場合はVIMS刺激の強度だがー を仲介して、立体視3Dイメージとの関連はあるが、決して原因ではない条件に差ができてしまうかもしれない、という点である。
The problem with this approach is that the stereopsis could mediate other factors – in this case the strength of the VIMS stimulus – leading to differences between the conditions which are associated with the stereoscopic 3-D images, but not necessarily caused by them.
別の言い方をすれば、実験で3D映画を観ることによるVIMSが増加することが事実だとしても、それがどのような仕組みで起こるのかは簡単には明らかにならないだろう、ということです。
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被験者に静止した球(上段)と3D映画(下段)をVRDで見せた場合の体の重心の動き 左は両足を閉じて、右は開いて。 (Stabiliogram-Diffusion Analysisを用いた解析) Computer Technology and Application 3159-168 (2012) |
では、1950年代に3D映画がアナグリフ方式ポラロイド方式で普及したときには、このような身体的な不快感や変化は報告されなかったのでしょうか?学術誌や業界紙にはあまり報告はないのですが、やはり頭痛を起こす人たちはいたようです。人気TV番組「アイ・ラブ・ルーシー」のプロデューサーで、TV番組制作のパイオニアでもある、ジェス・オッペンハイマー(1913 – 1988)は、1950年代の3D映画のブームの際にある発明をします。「3D映画を2Dでみるメガネ」だそうです。これは、彼が奥さんと3D映画を観にいったとき、観客の中に3Dメガネの上から片手で片方を隠している人たちがいて、不思議に思ったことが発端です。それが両目で(3Dで)観ると頭痛がするからだ、と知って、そのような人たちのためにメガネを作ったのです。このメガネが売り出されたのか、効果があったのかはわかりません。
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ジェス・オッペンハイマーの3D→2Dメガネ (Popular Mechanics, January 1955) |
問題は、この3D映画の問題は、エンターテーメント業界が商業的に作り出してきたものだという点です。彼らが3D映画に商業的な価値が見出せない、となると研究し続けること自体に意味がなくなっていきます。それがヴァーチャル・リアリティにスライドしたとして、多くの部分は流用できるにせよ、もう一度問題の定義をしなおし、データを蓄積していく必要があるかもしれません。
「アバター」に端を発した3D映画への期待と投資は、明らかに岐路に差し掛かっています。ジェームズ・キャメロンがなかば強迫的に3D映画への転換を迫ったことで、配給と上映のデジタル化が進んだことは事実です。しかし、常に「新しい体験」という言葉を持ち出して、 次のものを売ろうとしても、前のものが「大したことなかった」と思われていれば、自然に投資が鈍るとも限りません。この「新しい体験」を十分な映画表現、エンターテーメントのツールとしての把握と制御ができるものにするまで、まだ時間がかかるように思われます。
(4)に続く