イーグル=ライオンのフィルム・ノワール史 (1)

イーグル・ライオンといえばフィルム・ノワールで有名な映画会社だが、その成り立ちは実に複雑である。

フィルム・ノワールとイーグル=ライオン

イーグル=ライオンは他のB級映画製作会社と大差なかったが、その映画、特にアンソニー・マンが監督した映画に関しては高く評価されていた。「その影響力は、会社組織が機能しなくなったのちも長いあいだ続いていたが、特に50年代の初期にはその影響力は大きかった。そして、良くも悪くも、アメリカの犯罪TV番組に多大な影響を残した。」とドン・ミラーは言っている。1950年にイーグル=ライオンはフィルム・クラシックスと合併してイーグル=ライオン・クラシックスとなり、翌年には製作を停止、ライブラリは新生ユナイテッド・アーチスツに譲渡された。

The New Historical Dictionary of American Film Industry

フィルム・ノワールの歴史を検証していると、1940年代後半のノワール・フィルモグラフィに大きく貢献したある映画会社にたどり着く。イーグル=ライオン・フィルムズである。アンソニー・マンが映画監督としての足場を固めた場所、ジョン・オルトンが、制約された撮影現場にも関わらず、当時のハリウッドのスタンダードをはるかに凌駕する映像を作り上げたスタジオである。

下の表は、アンソニー・マンとジョン・オルトンが組んだイーグル=ライオン配給の映画のリストである。『夜歩く男』の監督はアルフレッド・L・ウォーカーがクレジットされているが、ノンクレジットでアンソニー・マンが参加していたと言われている。

題名 製作
T-Men
(邦題:T-メン)
1947
Edward Small Productions
Bryan Foy Productions
prod:
Aubrey Schenck
dir: Anthony Mann
dp: John Alton
Raw Deal 1948
Edward Small Productions
Reliance Pictures
prod: Edward Small
dir: Anthony Mann
dp: John Alton
He Walked by Night
(邦題:夜歩く男)
1948
Bryan Foy Productions
prod: Bryan Foy
Robert Kane
dir: Alfred L. Werker
dp: John Alton
Reign of Terror
(邦題:秘密指令)
1949
Walter Wanger Productions
prod: William Cameron Menzies
Walter Wanger
dir: Anthony Mann
dp: John Alton

しかし、イーグル=ライオンという映画会社は「アンソニー・マンとジョン・オルトンという監督/撮影監督コンビが在籍した場所」という以上の言及をされることはない。それも致し方ないことかもしれない。当時乱立した独立プロダクションは作った映画の配給先がなかなか見つからず困っていたが、イーグル・ライオンは凋落したユナイテッド・アーチスツの受け皿としては役不足だった。所詮、《ポヴァティ・ロウの樽の底》と呼ばれたプロデューサーズ・リリーシング・コーポレーション(PRC)が前身である。いくら外部から資本が投下されたと言っても、5大メジャーに太刀打ちできる会社ではなかった。

実はイーグル=ライオンについては、よくわかっていないことが多く、文献にも混乱した記述がみられる(私自身、以前のブログ記事で間違った記載をしている)。ここではわかる範囲で事実を再検証して、この会社が果たした役割を紐解いてみたいと思う。

イーグル=ライオン・フィルムズのロゴ
『虚しき勝利』のオープニングより

イーグル=ライオン・フィルムズ

まず、ひとくちに「イーグル=ライオン」と言っても、実はいくつかの違う会社が存在している。映画の冒頭のロゴとして登場する「イーグル=ライオン・フィルムズ」の他にも「イーグル=ライオン・ディストリビューターズ」「イーグル=ライオン・スタジオ」などの名前の会社がある。最大の混乱の源は「イーグル=ライオン・フィルムズ」という名前を、全く資本と経営が違う二つの会社が使っていたことだろう。整理すると以下のようになる。

会社名 事業
イーグル=ライオン・ディストリビューターズ
Eagle-Lion Distributors, Ltd.
J・アーサー・ランクが大英帝国圏やフランス、中央ヨーロッパなど、アメリカとイギリス以外の地域で映画を配給するために設立した会社。
イーグル=ライオン・フィルムズ
Eagle-Lion Films, Inc.
J・アーサー・ランクがイギリスで製作した映画をアメリカで公開するために設立した配給会社。1944~1945年
イーグル=ライオン・フィルムズ
Eagle-Lion Films, Inc.
アメリカのロバート・R・ヤングがハリウッドで映画製作するために成立した製作・配給会社。ニューヨークが本拠地。パテ・インダストリーズの子会社。1945~1950年
イーグル=ライオン・スタジオ
Eagle-Lion Studios, Inc.
イーグル=ライオン・フィルムズ③の子会社でハリウッドに本拠地を置く、映画製作会社。
イーグル=ライオン・クラシックス
Eagle-Lion Classics
1950年に倒産寸前のフィルム・クラシックスとイーグル=ライオン・フィルムズが合併してできた会社。製作はせず、配給のみ。

これだけでも混乱をきたす上に、「イーグル=ライオン・ピクチャーズ(Eagle-Lion Pictures)」「イーグル=ライオン・プロダクションズ(Eagle-Lion Productions)」という実体のはっきりしない呼称が使われている文献もあり、より混迷を深めている。

特に上の表の②と③は、活動時期が連続していて、しかも③が②の事業を引き継いだために、非常に混同しやすい。この複雑な仕組みを念頭に置きながら、《イーグル・ライオン》というブランドにみる戦後英語圏の映画事業と製作の流れを見ていきたい。

『虚しき勝利(Hollow Triumph, 1948)』
イーグル・ライオン・フィルムズの典型的なフィルム・ノワール
監督:スティーヴ・セクリー
撮影監督:ジョン・オルトン

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です