広告に載った九つの映画:海賊ピエトロ (後篇)

「吸血鬼(Vampyr, 1931)」カール・Th.・ドライヤー監督
ルドルフ・マテ撮影

ルドルフ・マテ(1898 – 1964)はポーランド生まれのカメラマン、映画監督です(1)。ブダペスト大学を卒業後、アレキサンダー・コルダのもとで映画界に入ります。ハンガリーでカメラ・アシスタントを経験、その後、カール・フロインドの助手兼セカンドユニットカメラマンを務めます。「海賊ピエトロ」はそのころの作品で、後に出てくる「ミカエル」は、カール・フロインドが室内、ルドルフ・マテが戸外を担当したと言われています。この撮影で、カール・Th・ドライヤーはルドルフ・マテの技術と構成力を高く評価し、「裁かるゝジャンヌ(La Passion de Jeanne d’Arc, 1928)」で彼を起用します。あの、容赦ないクロースアップ、グレーに飛ばした背景、などはマテの類稀なる構図に対する優れた構成力によるところも大きいです。フリッツ・ラングがハリウッドに移る前にフランスで監督した「リリオム(Liliom, 1933)」ルネ・クレールの「最後の億萬長者(Le dernier milliardaire, 1934)」などにも参加した後、ハリウッドに渡り、多くの重要な作品で撮影監督を務めます。
孔雀夫人(Dodsworth, 1936)ウィリアム・ワイラー 監督
マルコ・ポーロの冒険(The
Adventures of Marco Polo, 1936
)アーチー・メイヨー 監督
海外特派員(Foreign
Correspondent, 1940
)アルフレッド・ヒッチコック 監督
生きるべきか死ぬべきか(To Be or Not to Be, 1942)エルンスト・ルビッチ 監督

「都会の牙(D.O.A.,1950)」
ルドルフ・マテ監督、アーネスト・ラズロ撮影



1940年代後半から監督に転向します。「都会の牙(D.O.A., 1950)」は最もよく知られたフィルム・ノワールの作品のひとつです。最大の理由はアメリカでパブリック・ドメインに落ちていて、安価でひどい画質のVHSが出回っていたからですが、それでも、この時期に(撮影は1949年)サンフランシスコとロスアンジェルスのロケで、ここまで印象的な映像を見せてくれる作品は稀少です。この映画は賛否両論分かれる作品で、荒唐無稽なプロットとやりきれないセリフで「ノワールの代表作とはとても言えない」という人もいます。しかし、撮影に精通したルドルフ・マテと撮影監督アーネスト・ラズロのとらえた、魔のような夜のロスの風景は飛びぬけてすばらしいと思います。ラストのブラッドベリー・ビルディングは、「ブレードランナー(Bladerunner, 1980)」「アーティスト(The Artist, 2011)」などでもロケーションに使用されました。

イェオリ・シュネーヴォイクト(1893 – 1961)は20年代から30年代のデンマークを代表するカメラマン・映画監督です(2)。宮廷写真家だった母親に連れられて14歳の頃にベルリンに移住、そこでやはりカメラマンとなります。また、マックス・ラインハルトの下で演技も学びます。1912年か13年頃にデンマークに戻り、そこで妻リリー・フォン・クンストバッハと一緒に自分の映画製作会社(Karlbach Kunstfilm, カールバッハ・クンストフィルム)を立ち上げます。そこで数作を製作した後、ノルディスクでカメラマンとなり、カール・Th・ドライヤーの映画(「サタンの書の数頁(Blade af Satans bog, 1919)」、「牧師の未亡人(Prästänkan, 1921」など)で撮影を担当します。1920年代後半から映画監督に転身し、1929年に「ライラ(Laila)」を監督、一躍デンマークの人気監督となります。スカンジナビアの先住民族、サーミ人をテーマにしたこの映画は大ヒットしたようで、シュネーヴォイクト自身によって1937年にリメイクされています。文芸大作からコメディ、ミュージカルまで器用にこなした監督でしたが、息子がナチスに入党、志願して東部戦線にドイツ軍として参加したことがきっかけとなって、一線から身を引きました。

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「海賊ピエトロ」のプリントは行方不明だそうです。スチールを見る限り、やはり美術が際立っているように思われます。アルビン・グラウが美術を担当した作品は少ないだけに非常に興味深い作品です。

(1)RUDOLPH MATÉ: Great Cinematographers, http://www.cinematographers.nl/GreatDoPh/mate.htm
(2)Issak Thorsen, Lars Gustaf: “Historical Dictionary of Scandinavian Cinema”