こんにちは。Murderous Inkです。
2026年9月19日のニュースレターです。
「エンバー・デイズ(Ember Days)」は、キリスト教徒の斎日で、1年のうち季節ごとに4回あります。それぞれのエンバー・デイズは水曜日、金曜日、土曜日の三日で、断食と祈りが行われます。今年の秋のエンバー・デイズは、9月16、18、19日です。1969年まではローマ・カトリック教会の典礼暦に含まれていましたが、現在ではあまり行われていません。季節の節目、天候や自然の変化を人々に感じさせる暦として自然なものだったのかもしれません。
フランク・ザッパ、22歳
フランク・ザッパは、1963年3月14日のNBCネットワークの番組「スティーヴ・アレン・ショー」に出演しています。当時22歳。彼は「自転車を演奏する男」という触れ込みで登場、実際に自転車の様々な部品や動作を利用して音楽を即興で演奏します。司会のスティーヴ・アレンも加わって、面白おかしくコメントしていくのですが、ザッパは(いつものとおり)真面目な顔で穏やかに答えていきます。
ザッパの友人でエンジニアのポール・ダフやザッパ自身の回想によれば、それまで「スティーヴ・アレン・ショー」にジャズ・ミュージシャンとして売り込もうとしても、まったく埒があかなかったのが、「自転車を演奏する男」という触れ込みにしたところ、一発で採用されたとのこと。
この番組で気になったのが、ザッパが冒頭で「世界最悪の映画『ザ・ワールド・グレーテスト・シナー(The World’s Greatest Sinner, 1963)』のサウンドトラックを担当した」と言っているところです。あの映画は、公開がこの「スティーヴ・アレン・ショー」の放送のわずか2か月前で、しかも本当に数館でしか公開されていないので、世間にはまったく知られていなかった頃です。ザッパの紹介によれば、サウンドトラックの録音は「55人のオーケストラに風変わりな管楽器セクション」「コントラバス・クラリネット、4本のファゴット、2本のオーボエ、コーラングレ、4本のフルート、ピッコロ、4本のトランペット、4本のホルン、4本のトロンボーン、それにチューバ」の編成だったといいます。録音はカリフォルニア州アルタ・ロマのチャフィー・カレッジでおこなわれました。
私は、『ザ・ワールド・グレーテスト・シナー』が「世界最悪の映画」と呼ばれるようになったのは、ずっと後だと思っていたのですが、ザッパがもうすでにこの時に言っていたのですね。ティモシー・ケリーは、この番組の頃からザッパがこの映画と距離を置き始めたと言っています。
《映画の復元》は何を復元するのか
今回から、《映画の復元》が抱える問題についてみていきたいと思います。
最近は過去の映画の復元(レストア)が盛んになりました。とにかく、毎週、新しい《復元上映》《4Kレストア版公開》のニュースが流れています。かつては酷い状態のプリントしか存在せず、一般には鑑賞することも実質的に不可能という作品も多かったのですが、デジタル映像技術が発達して、物理的に上映が難しい映画でも、映像が修復されてDCP上映されたり、ディスクや配信で鑑賞できるようになりました。
しかし、その《復元》がいったい何をしているのか、本当に《復元》なのか、という問題が、頻繁に問われるようになりました。このニュースレターでも、『28日後…(2002)』のレストア版に「フレームが抜けている」という苦情が殺到していること、『クライング・ゲーム(1992)』の色がおかしいというコメントが多数寄せられていることなどをとりあげました。
これから数回にわたって、そういった《復元》の問題を見ていきたいと思います。
フレームのクロップ
以前、クリスティン・トンプソンのブログに「フセヴォロド・プドフキンの『サンクトペテルブルグの最期(Конец Санкт-Петербурга, 1927)』の流通している版は、1969年にモスフィルムがサウンドを追加して《復元》したヴァージョンで、フレームがひどくクロップされている」と書かれてあって、驚いたことがあります。もともと1.33:1のアスペクト比のサイレントフィルムだったものに、むりやり光学サウンドトラックを追加して、フレームをクロップしたのでしょう。
フレームの左側が欠損している。サウンドトラックを追加するのに必要な分よりもずいぶん大きく欠損している。上部と下部も欠損している。右側だけが大体元のままのようだ。
Kristin Thompson
そして、このような改変によって、映像がもつべき意味が大きく変わって(失われて)いるといいます。
プドフキンがフレームの端を使って、イデオロギーを表現しようとする際に、彼の意味したところは全く無化されてしまう。
Kristin Thompson

かつて無声映画にサウンドトラックをつけて、再公開する際には、この《切除》が頻繁に行われていました。有名な例はチャールズ・チャップリンの『黄金狂時代(The Gold Rush, 1925)』で、これは1942年にサウンド版を公開する際に、チャップリン自身が《切除》してしまいました。『黄金狂時代』のいくつかのシーンについてはもはや修復不可能になってしまっています。
さらに問題をややこしくしたのが、クライテリオンはこのサウンド版の1994年版プリント(”Photoplay” Print)をデジタル・スキャンし修復した際に、アスペクト比を合わせるために《再度クロップした》のです。その再度クロップした様子が以下の動画で説明されています。
確かにオリジナルの1.33:1のフルフレームの映像が紛失してしまっているシーンもありますが、はたしてこの「再々クロップ」が適切なのか、議論を呼んでいます。もともと、チャップリンが、クロップだけでなく、編集を加えてプロットを若干変え、フレームレートも24fpsにして1942年版を製作したのだから、1942年版を《正統》な版としてみればいいではないか、という意見もあるでしょう。では、1925年版は《正統》ではないのでしょうか?これは「製作者や監督による改変は《修復》なのか」問題にも直結しています。有名なのは『スター・ウォーズ(1977)』ですね。この問題は、今後このシリーズでも取り上げます。
前述の『サンクトペテルブルグの最期』もそうですが、作品がパブリック・ドメインになると、アーカイブの知識やFIAFのガイドラインなどの基本的なルールが無視されて《復元》された映像が出回るようになり、収拾がつかなくなります。アルフレッド・ヒッチコックの『殺人!(Murder!, 1930)』などは、粗製濫造されてもはや何が何だかわかりません。
ちなみに、冒頭の『サンクトペテルブルグの最期』は、いまだにフレームがクロップされたヴァージョンしか見ることができないようです。
ニュース切り抜き
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その『スター・ウォーズ 新たなる希望(Star Wars, 1977)』ですが、オリジナル公開版が2027年2月19日から、全世界のIMAX 70㎜フィルム上映館で上映されます。これは、ジョージ・ルーカスがCGIを施して再編集した1997年版ではなく、1977年に劇場公開されたオリジナルのヴァージョンです。もともとは35㎜フィルム、2.35:1のアスペクト比ですが、これを70㎜フィルムに「ブローアップ(拡大)」したプリントが準備されます。ただしアスペクト比(IMAXは1.43:1)に関しては情報がまだないようです。
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レストア版公開に先立って、修復前後を比較した動画をアップロードするのが流行ですが、まずこれはオーストラリアの国立映像音響アーカイブがレストアした『キャディ(Caddie, 1976)』のトレイラー。
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ケン・ラッセルの『肉体の悪魔(The Devils, 1971)』。ワーナー・ブラザーズ・クロックワーク。
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DCP上映が普及する前、デジタルで製作されたアニメーションは上映用にフィルムに転換されていました。1990年代から2000年代頃のことです。問題は、フィルムに転換する際に色がシフトしてしまうことです。アニメーションの場合、フィルムの色が狙った色になるように、デジタル製作時に、あらかじめ色をシフトさせておく必要がありました。Animation Obsessiveが、そのプロセスを紹介しています。また、この時代のアニメーションを鑑賞する場合の注意点(デジタル・ストリーミング・プラットフォームのなかには、この色のシフトを考慮せず、製作時のデジタル素材をそのままマスターにしてしまっているケースがある)についても議論しています。
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