こんにちは。Murderous Inkです。
Substackでニュースレターを作っていくことにしました。
映像、音楽、アートとテクノロジーのあいだのもつれを探していく日記です。
毎週できるかどうかはわかりませんが、できるだけやっていこうと思っています。
今号のタイトルは、Almanacから。今年のDog Daysは7月3日から8月11日まで。
この名前の由来は、おおいぬ座のシリウス(Dog Star)が、7月から8月にかけて日の出と共に現れ日の入りと共に沈むことが、この時期が暑くなることと関連づけられたことである。
MTVは本当に終了したのか
去年の大晦日でMTVは放送を終了したという話がありましたが、実はそんなことはないらしいのです。
Did MTV Really Shut Down? Here’s What Actually Happened.(Vice.com)
ただ、もうかつてのMTVではないという話。
「MTV」の「M」は「Music」の「M」だが、MTVからほぼまったく音楽は消え去ってしまった。
この記事に紹介されている「MTV Rewind」というサイトが、かつてのMTVをYouTubeビデオの連続再生で再現するという離れ業をやっています。MTVが放映を開始した1981年8月1日を再現するというチャンネルもあります。バグルスの「ラジオスターの悲劇(Video Killed the Radio Star)」が最初に流れたというのは有名なんですが、あの有名なミュージック・ビデオではなかったんですね。知らなかった。
「もはやない国のかつてない光」
友人からのお誘いを受けて、神奈川県立近代美術館(葉山)で開催中の「もはやない国のかつてない光 東ドイツの女性写真家たち」展に行ってきました。
展示の概要は、神奈川県立近代美術館のサイト、美術手帖のサイトでご覧ください。
実は、すごくゆっくり見ていたら閉館時刻になってしまって、一部の展示しか見ることができなかったのです。もう一度、行きたいのですが、(逗子までの)距離にちょっと二の足を踏んでいます。
今の私たちは、東ドイツの女性写真家たちの作品を見ても、どうしても、自分たちの資本主義やフェミニズムの文脈に埋め込んで、解釈してしまうような気がしてしまいます。例えば、「女性写真家」という切り口が、20世紀の東ドイツでもっていた意味と、21世紀の日本でもつ意味とのあいだの《距離》に、どう想像力を働かせるべきか。その困難さを感じました。
「写真技術」という切り口でも《距離》を見極めるのが難しいように感じました。特に1980年代になるまでは、作品の保存状態の問題もあるのかもしれないけれど、フィルムやプリントなどの材料技術や器械工学に関わる技術的な《制約》が、個々の作品のなかに埋め込まれているように感じました。ただ、その《制約》というのは、「同時代の資本主義国家の写真のテクノロジーと比べると劣っている」ということではないと思うのです。私の知るかぎり、歴史はもっとねじれています。
おそらく、多くの写真家は東ドイツAGFA(VEB Film- und Chemiefaserwerk Agfa Wolfen)のフィルムを使っていたんだと推測します。
このウォルフェンにあった工場は、第二次世界大戦中、ナチス政権下で、カプラーを使った「Agfacolor Neu」を開発生産したんですよね。それまでのカラーフィルムと違って単一層で発色するという画期的な技術で、278もの特許で守られていました1。ドイツが敗戦した時、アメリカはこのウォルフェンにいた化学者たちをアメリカに移住させ、AGFAのカラー技術に関する極秘資料をすべてパブリック・ドメインにしたんです。つまり、敗けた国の技術は全部タダでみんな使える、ということです。
多くの《資本主義国家》の写真テクノロジーは、このパブリック・ドメインにされてしまったAGFAの技術に負うところが大きいんですよね2。皮肉なことに、この《資本主義国家》には、かつての枢軸国だった日本とイタリアも含まれていて、フェッラーニアとか、富士フィルムとか、さくらフィルムとかが、このパブリック・ドメインになったAGFAの技術をもとにカラーフィルムを開発します。だから「同時代の資本主義国家の写真のテクノロジーと比べると劣っている」という言葉が、慎重な躊躇をもって回避されなければいけない表現だということは、分かっていただけると思います。
[第二次世界大戦後、連合軍の]BIOS(英国情報委員会)、CIOS(合同情報委員会)及びFIAT(現地情報局技術部)の報告書がアグファカラーのフォーミュラを世界中に開示し、国際的で多国籍の、無数のアグファカラーの後継者を生む土壌をつくった。フェッラーニア、スヴェーマ、ゲバルト、アンスコ、富士フィルムは、当初、アグファカラーの感光材料を自らのカラー写真、映画製品に応用した。
JOSEPHINE DIECKE
これはナチスの科学技術がすごかったとか、そういう話ではありません。「Agfacolor Neu」の成立事情や、その後の感光材料の変遷などを考えると、今回の展覧会でみた作品までの《距離》を意識せざるをえないと感じたのです。
Hello Dankness (2023)
Soda Jerk という二人組が監督した映画で、2023年、各地の国際映画祭で注目された作品。これはどういうかたちで公開できるのか、おそらく場所や、場合によっては上映できない可能性が高い映画。
私はたまたま機会があって、見ることができました。
既存の映画(主にハリウッド映画やドラマシリーズ)に別の人物をはめ込んだり、ニュース映像などに画像を貼り付けたりと言った加工をほどこして、そのクリップを見事によどみなくつなぎ合わせていくのです。そうやって一つの物語を作りあげていった作品です。トランプ政権に対しては圧倒的な批判を浴びせつつ、バイデン政権に対しても、極めて辛辣なコメントをのせていく。
映画は、2016年の大統領選から2020年の大統領選までの時期を、おおまかに6つの章に分けて、様々な映画やドラマの映像クリップをつなげて物語にしていきます。ファウンド・フッテージのマッシュアップのような映像作品であるがゆえに、独特のサーカズム(諧謔)が全体を支配し、現在の政治的状況への批判であるとともに、私たちの消費文化への批評として機能している。これは実際に見てみないと、そのサーカズムを体感できないかもしれません。
この映画の冒頭に使用されたのは、2017年にペプシが展開しようとした「Live For Now」コマーシャルの映像です。この短編コマーシャルは公開と同時に「BLM運動をバカにしている」と批判にさらされ、2日で配信、放映をとりやめたようです3。消費社会の転覆したモラルをこれほどまでに体現した映像もないだろうと思います。私は実はこのペプシの映像を知らなかったのですが、そのあまりの異様な無邪気さに衝撃を受けました。と同時に、この映像(そしてこの映画じたいも)は、目まぐるしく変幻するコンテクストのなかで、その意味が日に日に崩れていっているのだと強く感じました。
“KniPPsen: Agfacolor Neu – History of modern color film (part 3),” KniPPsen. [Online]. Available: https://knippsen.blogspot.com/2012/11/agfacolor-neu-history-of-modern-color.html
J. Diecke, “Agfacolor in (Inter) national Competition,” Color Mania. The Material of Color in Photography and Film, pp. 211–223, 2020.
“Case Study: PepsiCo & Kendall Jenner’s Controversial Commercial.” [Online]. Available: https://astute.co/pepsi-kendall-jenner-commercial/
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