猫は這い寄る
ユニバーサルが『ドラキュラ(Dracula, 1931)』『フランケンシュタイン(Frankenstein, 1931)』よりも前に製作していたホラー映画『猫は這い寄る(The Cat Creeps, 1930)』は、長いあいだ現存するフィルムがない《ロスト・フィルム》とされてきました[❖ note]❖The Cat Creeps ユニバーサルが1932年に公開した短編映画『Boo!』のなかに2分ほどのフッテージがある。。そのプリントが、完全な形ではないですが、インディアナ大学ブルーミントン校の映画アーカイブで発見されました。サウンドトラックはUCLAのアーカイブから発見されており、現在レストアがすすめられています。
|
|
Indiana Public Media, “Film historians excited about 1930 footage discovered at IU Library Archives“, Eddie Stewart, November 21, 2025
エプスタイン・ビデオの分析
いわゆる《エプスタイン・ビデオ》(ジェフリー・エプスタインが収監されていたメトロポリタン矯正センターで死亡したときのセキュリティ・カメラの映像)をめぐる疑惑で、元FBIの犯罪分析官のステイシー・エルドリッジとベッキー・パスモアが実際の動画を分析しました。Wiredなどのメディアで「疑惑」として報道されていたのが、「3分近い映像が消失している」というものです。エルドリッジとパスモアは、なぜ2分間のタイムスタンプが飛んでいるのか、消失した部分とは、そして現在分析されているこの動画ファイルは何なのか、を解析しています。
動画編集をしている人ならば、比較的当たり前に気づくことを、メディアは報道していなかったんですね。
Forbes, “‘Missing’ Epstein Video—Digital Forensics Experts Reveal What Really Happened“, Lars Daniel, July 28, 2025
The Blog – Mobile Forensics and Digital Forensics Thoughts by Stacy Eldridge, “Missing Minutes in Epstein Jail Video – How many minutes are really missing? “, Stacy Eldridge, July 24, 2025
マリブ海岸のビーチハウス
リンズレー・パーソンズ製作、ハロルド・D・シュスター監督の『Loophole (1954)』を見ていたら、ラスト・シーンに見覚えのある建物が登場してきました。
|
|
|
Loophole (1954)
マリブのビーチハウス。銀行預金を横領した犯人たちが高飛びの準備に使う場所。
|
そう、ロバート・アルドリッチ監督の『キッスで殺せ(Kiss Me Deadly, 1954)』で、ギャングのアジトとして使われたビーチハウスです[❖ note]❖マリブのビーチハウス AFIの『Loophole (1954)』の説明にも、ラストシーンで使用されたビーチハウスが、『キッスで殺せ』の核爆発のグラウンド・ゼロになる、と記述されている。。
|
|
|
Kiss Me Deadly (1954)
「パンドラの箱」を入手したソバリン博士が高飛びの準備に使う場所。
|
ロバート・アルドリッチは『何がジェーンに起こったか?(What Ever Happened to Baby Jane?, 1962)』でも、このビーチハウスをロケ地に使っています。
|
|
|
What Ever Happened to Baby Jane ? (1962)
ビーチハウスが遠景に見える。
|
『ロサンジェルス・プレイズ・イットセルフ(Los Angeles Plays Itself, 2003)』でトム・アンダーソンはロサンジェルスのモダニズム建築は、悪役の巣食う場所として象徴的に利用されていると論じていましたが、このビーチハウスは、まさしくその好例だと思います。
住所はポイント・デュームのウェストワード・ビーチ・ロード。ビーチハウスはもう存在しません。
Movie Tourist, “Kiss Me Deadly (1955)“, Yuri G., September 1, 2012
『トイ・ストーリー』の色彩
この記事はかなり話題になったので読んだ方も多いかもしれません。
PixerがDCP以前に35㎜フィルムで製作・公開したアニメーション映画の色についての考察です。ここでは、現在ディズニー・プラスでストリーミングされているバージョンの色と、35㎜フィルムで公開されたときの色とは大きく異なっている、という指摘がされています。『トイ・ストーリー』など、デジタルで製作されたにもかかわらず、フィルムで公開されるアニメーションでは、デジタル→フィルムで発生する色のシフトを考慮する必要がありました。そこであらかじめデジタル作業の段階で、色を(逆方向に)シフトさせておいて、フィルムにプリントする際には狙った色になるようにするということが行われていました。Animation Obsessiveが今回指摘しているのは、ディズニー・プラスでストリーミングされているデジタル版は(フィルムへのプリントを考慮して色をずらした)デジタル素材をそのまま流しているのではないか、という疑惑です。
|
|
|
トイ・ストーリー(35㎜フィルム4Kスキャンの予告編)
|
|
|
|
トイ・ストーリー(ディズニー・プラスの予告編)
|
上の予告編からも明らかなように、ディズニー・プラスはかなり色が違っています。
ただ、この記事の中で「35㎜フィルム」と呼ばれている動画のほうも、デジタル化された時の状況はわかりません。さらにディズニー・プラスの色が違っているのは、本当に製作時のデジタル素材から作られたからなのか、というのも素朴な疑問としてあります。
いずれにせよ、この記事の最後にも書かれていますが、今日、『トイ・ストーリー』がどう見えるかを決めるのは、ディズニーなのです。だからこそ、オルタナティブとして、35㎜フィルムで見ることができる機会があれば、見に行った方が良い、というのもその通りかもしれません。
Animation Obsessive, “The ‘Toy Story’ You Remember“, 11/10/2025
日本における中国文化についての言説
このエッセイを読みながら、中国国内の表現者の活動に対する、私たちの態度は常に検証され続けるべきだろうと強く感じました。
以前、許耳監督の『無名(2023)』について調査していたときに、日本語圏に限らず、英語圏でも、この映画に対する批評がネガティブなだけでなく、その批評の態度が極めて《消極的》あるいは《尊大な》ものばかりで驚きました。ほとんどすべての批評(感想文)が「中国共産党のプロパガンダ映画」というところで思考停止し、そこから先に一歩踏み込んで映像の批評分析に進むことを拒んでいるように見えました。通常行われるような、監督のフィルモグラフィやスタイルを考察するといったことは、『無名』の許耳監督については見かけませんでした。プロパガンダ映画だと、そのような批評行為に値しないのならば、なぜレニ・リーフェンシュタールの映画は繰り返し批評の対象になるのか。そのことをもう一度考えてみる必要があるでしょう。