Opioid, Politics, and Music Video
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フェンタニルの化学構造式
Wikimedia Commons
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アメリカのオピオイド問題は、2000年代に広まったオキシコンドンの乱用がきっかけとなって、それから悪化の一途をたどっています。もともとオキシコンドンは、癌治療における鎮痛薬としてマーケティングされたものでした。パーデュー・ファーマ(Pardue Pharmaceutical)は、癌患者の疼痛管理を足がかりに、癌患者以外の、それほど深刻な痛みに苦しんでいるわけではない人々にもオキシコンチン(OxyContin, オキシコンドンのパーデューの商標名)を処方するように、医師達に対してプロモーションを展開しました。
全米経済研究所の Carolina Arteaga と Victoria Baroneは、パーデューに対して起こされた訴訟での公開資料や、全国の癌患者やオピオイド問題に関係した統計データなどをもとに、オピオイド問題が深刻だった地域と共和党の支持率が高い地域に一定の相関がみられるという研究結果を発表しました。すなわち、オピオイド問題に対する共和党の政策が、その被害を直接受けた地域の有権者に響いたのではないか、という見解です。私もこの論文のデータに目を通して見たのですが、データ分析から結論を導き出す過程があまりしっくりきませんでした。
オキシコンチンの蔓延のあとに来たのが、フェンタニルの過剰摂取の急増で、フェンタニルは、今もなおアメリカ社会の深刻なドラッグ使用と犯罪の問題の中心となっています。致死量がわずか2ミリグラムと言われるフェンタニルの危険性を知りつつも、その舌下摂取液サブシス(Subsys)を広範囲に販売したのがインシス(Insys Therapeutics)という会社でした。インシスは、パーデュー・ファーマのマーケティング手法をさらに過激にして、疼痛管理の医師達に売り込んだのです。HBO製作の『巨大製薬会社の陰謀/The Crime of the Century (2021)』は、パーデュー・ファーマとインシスが引き起こしたオピオイド問題を追ったドキュメンタリーですが、とにかく恐ろしい(2025年12月現在、U-NEXTで視聴可能)。そのなかでも、インシスのマーケティング部門が制作したというミュージック・ビデオは衝撃的です。これはサブシスは全く問題ないから、売って売って売りまくれという、セールスの研修に使われたものです。
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Subsys Rap Video
インシスが自社のセールス研修のために制作したビデオ。
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このように現役の社員が制作したミュージック・ビデオが研修資料として使われている、という例は、どのくらいあるのでしょうか。これを見て、研修を受講している社員はどう感じるのか。効果はあったのか。部外者から見ると荒唐無稽に見える映像でも、ある環境下では極めて効果的だったりします。
C. Arteaga and V. Barone, “Republican Support and Economic Hardship: The Enduring Effects of the Opioid Epidemic*,” Q J Econ, p. qjaf051, Nov. 2025, doi: 10.1093/qje/qjaf051. (pdf)
Science, “In Other Journals: Political impacts of a public health crisis“, Brad Wible, December 18, 2025
Lost 60 Minutes Edpisode
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Aerial view of the Terrorism Confinement Center (CECOT)
Wikimedia Commons
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CBSの「60 Minutes」で12/21に放送予定だった「Inside CECOT」というセグメントが、直前になって編集局長Bari Weissによって放送延期にされました。この番組は、アメリカから「違法移民」「犯罪者」として追放され、エルサルバドルにある収容所に強制収監されたベネズエラ人のインタビューをもとに制作された番組です。CBSは今年の7月にスカイダンスに買収され、Bari Weissが「60 Minutes」の主幹を担当するようになりました。「Inside CECOT」放送中止は、その一連の流れで予想された出来事ではありました。
ところが、CBSの番組をカナダで取り扱っているGlobal TVの「Global TV App」が、この「Inside CECOT」のセグメントを全編アップロードしていたのです。すぐに削除されたようですが、このビデオをダウンロードしていたユーザーたちが、各種サービスにアップロードし続けています。YouTube(ただしすぐに削除されます)やiCloudなどでシェアされています。
CBSによれば、12/20に放送延期が決定され、それをGlobal TVには伝えてあったということです。翌日12/21(日)の夜のGlobal TVでの放送では差し替えられた番組が放映されたのですが、Global TV Appの方には、差し替え前の「Inside CECOT」が入っていたということです。
404Media, “Archivists Posted the 60 Minutes CECOT Segment Bari Weiss Killed“, Joseph Cox, December 22, 2025
The Globe and Mail, “CBS issues takedown orders for 60 Minutes segment ‘mistakenly published’ by Global“, Aisling Murphy, December 24, 2025
Roger Corman Film Noir
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『ティーンエイジ・ドール(1957)』
Wikimedia Commons
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ロジャー・コーマンの『ティーンエイジ・ドール(Teenage Doll, 1957)』のかなり良い画質のバージョンが、Film MastersのYouTubeチャンネル(Film Masters TV)にアップロードされています。Film Masters TVは「a consortium of historians and enthusiasts who seek to celebrate the preservation and restoration of films」とあり、フィルムエレメントを2K、4Kでデジタルスキャンして商品化しているようですが、コーマンのこの作品はYouTubeでフリーで公開しているようです。
このほかにも、「Wade Williams Collection」という名のフィルム・コレクションから4Kでスキャンした作品をYouTubeで公開しています。あと、「我等の町(Our Town, 1940)」のフィルム・スキャンそのものもありますね。これからどんな作品が公開されるのか楽しみです。
Film Masters TV, “YouTube Channel“
We Are Storrer
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『We Are Storrer (2025)』
SXSW (via archive.org)
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イギリスのパルクール・YouTuber「Storrer」を追ったドキュメンタリー映画「We Are Storrer (2025)」はSXSWで今年の3月にプレミア上映されたのですが、いまだに公開されていません。この映画の監督がマイケル・ベイ →そうです、あのマイケル・爆発・ベイです← なのですが、なぜか全く話題になっていないのです。不思議なことにトレイラーもまだ公開されておらず、一般公開がいつになるのか発表もありません。
確かに最近のマイケル・ベイ作品は話題にならないことが多く、2022年の『アンビュランス(Ambulance, 2022)』も結局、不発といった印象です。この記事によれば、『We Are Storrer』は12月初めになってもまだ配給が決まっていない様子。批評家のあいたでは意外と高評価なんですが。
slashfilm, “Michael Bay’s 2025 Documentary Might Be One Of The Best Movies Of The Year (That We Still Can’t Watch)“, Rafael Motamayor, December 4, 2025
slashfilm, “Michael Bay’s First Documentary Was So Dangerous To Shoot He Wasn’t Allowed On Set [SXSW]”, Rafael Motamayor, March 12, 2025